このサイトは主に長山一夫の著書、仕入覚書を掲載するものです。
トップページへ

北海道、増毛
磯焼けから藻場再生への挑戦
留萌管内増毛町、舎熊海岸に藻場、海中林が再生した。

平成22年8月15日、16日、17日

なぜ増毛行なのか?
「森は海の恋人」運動から「磯焼け」の修復、藻場再生へ


 山に広葉樹林を植えることによって海を再生し、さらに山、川、里、海の関連学の世界にまで発展していった畠山重篤さんの「森は海の恋人」運動に参加して7年になる。その植樹運動の常連であり、新日鐵の環境・プロセス研究開発センターの室長である堤直人さんとは数年前からのお付き合いである。今年の懇親会の席で、堤さんが北海道増毛漁協での磯焼け修復事業の責任者であることを知った。
 近年全国的に蔓延している浅海にある磯場が白化現象を起こす「磯焼け」から、藻場を修復再生するということは、植樹運動の大きな目的の一つでもある。しかし植樹による海の再生には、少なくとも10年以上の歳月が必要とされる。その磯焼けの修復、藻場再生を、もう少し短期間で達成させるために、製鉄の過程で発生する製鋼スラグを利用する実験を、7年前から増毛の舎熊海岸で行い、かなりの成功をおさめているのだと言う。

 そしてその後、TVSテレビの『夢の扉』で放映された渋谷潜水工業の渋谷政信さんと増毛漁協、東京大学の山本光夫教授と新日鐵との連携による、増毛の磯焼け修復実験での藻場再生成功の映像を観ることによって、ますます大きな興味と期待を持つこととなった。

 日本は四方を海に囲まれ、35,000kmという地球の円周の85%に相当する海岸線と、暖流と寒流がぶつかる世界三大漁場の一つを持ち、国土面積の10数倍に相当する排他的経済水域を有する世界有数の海洋国である。しかしそれにもかかわらず、近年の日本漁業は絶望的な衰退の中にあるとされている。

 今、この日本漁業の世界に何が起きているのだろうか?
 この一年、衰退を続ける日本漁業の現状と将来、さらにその再生について調べている中で、ほとんど全てのデーターが日本漁業の絶望的な将来像を示しているようで暗澹たる思いの中にあった。
 日本漁業再生には各種様々な問題が山済みされているのだが、とにかく「平均年齢65歳近くになる老齢化した漁師達の絶望的な後継難を解決するためには、現在のあまりにも低い平均所得を、少なくとも国民の一般所得水準並みに引き上げていかなければならない。そのためには漁獲量と漁獲高を増やさなければならない。そのためには痛みを伴う強烈な漁業政策と共に、各地の荒廃した漁場を直ぐにも再生してゆかなければならない」という思いを強くしていた。その最中の増毛からの嬉しいニュースであった。

 増毛漁協での藻場再生成功のニュースは、漁業関係者と学界の研究者の間でも大きな問題提起となっているのだと言う。
 平成10年、磯焼けによる漁業資源減少に悩む増毛漁協では、コンブが減少したのは海への栄養分が少なくなったからではないかと考え、魚介類の加工で発生する残渣物の処理もかねて、発酵魚カスを施肥する事業に取り組んでいた。さらに平成14年の新日鐵による製鋼スラグを利用しての磯焼けの修復再生実験の立ち上げと実行は、東京大学の定方正毅教授による鉄分の不足による磯焼けの研究と、渋谷潜水工業の渋谷正信さんによる実験地としての増毛漁協紹介の下に実現されたものであった。

 増毛漁協の磯焼け場で、まさに機が熟したような幸運な実験が展開されていったのだ。日本の漁業再生の一環として、こんな素晴らしい藻場再生の成功を、堤さんの研究チームが実行役の中心となってやってきたということは、僕にとっては二重の喜びと驚きであった。
 今回の増毛行きは、製鋼スラグを利用しての「磯焼け」の修復再生の現地で、直接、漁業者の経験談を聞き、一緒に再生成功の喜びを味わうためのものであった。

増毛行に先立ち、漁業再生の大きな障害となっている「磯焼け」についての再勉強となった。

「磯焼け」はとはなにか?
◎平成20年10月に発刊された日本水産学会監修による水産学シリーズの「磯焼けの科学と修復技術」・「磯焼けの原因と修復技術  谷口和也・成田美智子・中林信康・吾妻行雄」より

水産庁の磯焼けガイドラインによる磯焼けの定義
 磯焼けとは、「浅海の岩礁、転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象(藤田、2002年)一旦、磯焼けが発生すると、藻場の回復に長い年月を要したり、磯根資源の成長の不良や減少を招いたりするため、沿岸漁業に大きな影響を及ぼす。磯焼けが発生する原因、藻場が衰退した後の景観、影響、回復までの継続期間などは、海域の地形、海洋学的特性、瀬物の種組成、沿岸利用・開発の歴史・現状などによって異なる。海中林を構成する藻場を中心にそれまで優先していた多くの海草が消滅し、無節サンゴモ群落が浅所へ拡大し、海中林に依存して生活するアワビなど有用な魚介類が減少して漁業生産が著しく低下する現象」とする。

磯焼きが継続すると、
「魚介藻類の減少や生長・成熟不良が生じるが、一方で無節サンゴモ類のように増加する生物もある。一般に、ウニや貝類は飢餓に強く、成長不良の儘生き続けて海草の芽生えなどを食べるため、藻場回復の阻害要因にもなりうる」
「藻場の減少から壊滅は藻場に生息する魚介類の産卵、成長、生息の生態系を完全に抹殺することになり、有用な漁業資源の喪失となっている。商品価値の無いやせ細ったウニや貝類が、さらに藻場再生を困難なものとしてゆく」

北海道増毛町にて

相馬龍平氏
 新日鐵の堤直人さんから(株)北海道オーシャングリーン開発増毛事業所・所長 相馬龍平さんを紹介され、宿から滞在中の予定行動まで、一切の手配をお任せしての増毛行きとなった。15日午後から夕刻まで、16日は早朝から、まだ波の荒い舎熊海岸での藻場再生の現場で、細め昆布を海中から取り上げている記念写真撮影、夜は「すが宗」さんでの夕食と懇談まで、翌17日も早朝から留萌漁協での甘エビとスルメイカの入札とセリの見学まで、マンツーマンのご案内であった。
 博識多才、打てば響くように帰ってくる明快な回答の数々に、取材ノートは10ページにも上り、大満足と共に、すっかり感心してしまった。増毛のダーテイハリーと密かにいわれているらしい。日本最北の果樹園「仙北果樹園」の仙北清孝さんは「増毛の藻場再生プロジェクト」も編集している。
 僕と同年輩のすし屋の「すが宗」さんでの夜の一杯は、自家製生数の子、ズワイガニの卵の塩辛、増毛の超高級ナマコの酢の物、脂の乗った輸入ニシンの煮物等、珍味で全て美味であった。

磯焼けの原因と修復
フルボ酸によって発生する二価鉄から製鋼スラグが含有する二価鉄の利用
「森は海の恋人」運動、畠山重篤さんの植樹運動の理論的根拠となったのは北大の松永勝彦(北海道大学名誉教授(現四日市大学特任教授))の理論であった。
「山林の伐採、開発による破壊から自然環境を再生するために、広葉樹林を植樹する。大量の落ち葉によって作られる腐葉土はその下に大量の腐食酸であるフルボ酸を発生させ、それが山中の鉄と結合するとフルボ酸鉄(二化鉄)となる。森林伐採された山にある鉄は通常に川水によって流されてゆくと、空気に触れて三価鉄となってしまう。三価鉄はイオン構造が大きいために、コンブ等の海草は吸収することが出来ない。その結果他の栄養素も吸収することが出来ずに枯れていってしまう。これが磯焼けの大きな原因となっている。

 腐食酸のフルボ酸鉄(二価鉄)はイオン構造が小さいために、海草が吸収することが出来るようになる。最初に鉄が吸収されると、鉄は他の栄養分を吸収するためのサプリメントの働きをするために、他の栄養塩基を豊富に吸収することが出来るようになる。コンブの生殖と成長に不可欠で、海水中の栄養分が十分であっても、鉄イオンが不足すると成長しないということは、北大の室蘭臨海実験所の木村泰三教授によって確認されているが、コンブの生態にかかわる詳しいメカニズムはまだわかってはいない。効果の事実はまだ学術的には完全に受け入れられている段階ではない」という。

 海草が成長再生して行くと、生態的に敵対関係にある無節サンゴモを駆逐することになり、その結果磯焼けを消滅させ、藻場を再生させ海中林を作り出してゆくことになる。
 この理論をさらに積極的に展開していったのが、新日本製鉄が考案した製鋼スラグによる二価鉄の利用であった。「製鋼スラグは製鋼プロセスの副産物で、二価鉄を含んでいる。アルカリ性を弱めるために、炭酸化と呼ぶ処理をしてから使用される。製鋼スラグの再利用としては、道路の路盤材等に使用されていたが、公共事業の減少、廃コンクリートの再利用によるスラグ需要の減少のなかで、当初は新たな需要創出の手段として海の再生に関わっていった。今はもう少し志を高く、日本の海の再生のためにさらに積極的に製鋼スラグ製品を使った海域環境改善に取り組んでいる」と堤氏は言う。

さらに磯焼けとは、
磯焼けの主な発生原因
1)海水温の上昇による磯焼けの発生
2)藻類の生育に必要な鉄分と栄養塩の海への供給減少
3)ウニによる有用な藻類の食い荒らし

 水産庁によると、1980年には全国39都道府県の内24都道府県が、2008年には33都道府県が磯焼けの被害を受けていると言われる。磯焼けは近年では世界的な現象となっているのだが、磯焼けの原因は厳密には特定されず、漁協、国と地方自治体、学者の研究による原因の特定と修復作業の試行錯誤が繰り返され、徐々に解明されてきた。最も効果的だと言われていた植食動物(アワビ・ウニなど海草類を食する生物)の捕獲除去から始まり、その後様々な仮説と実験がなされてきたが、未だ長期的成果は少数の限定海域にしか見られていない。

相馬龍平氏談…
現場の漁業者達は、昔からの経験知から磯焼けの原因を推量している。
1) 河川の河口近辺と魚介類の加工場近辺の漁カスが流れ込む海域には海草が豊に育っている。さらに昔は生活排水の垂れ流しまであり、これが海の栄養分になっていた。
公害による海洋汚染、内湾の富栄養化防止を目的につくられた、魚介類のアラ、ワタ、未処理魚カス等の廃棄禁止の規制は、各地の海域状況の違いを全く無視した全国一律のもので、禁止規制により、日本各地で海の貧栄養化による磯焼けの発生となった。
2) 電力供給、砂防のためのダムによる山からの水量の人工的調節によって、河川による山からの栄養分流入の減少現象を起こしている。
3) 海岸沿いのコンクリートによる道路や護岸の設置によって、山からの自然で栄養豊富な雨水の流入が阻止されてしまったからではないか…
最近の増毛漁協では定期的に高度処理された魚カスを沿岸に撒いてきたのだが、その周辺には海草がしっかりと生えてきているという。

磯焼けとの戦いの経緯と画期的な成果
 平成15年(2003年)、最初は古茶内で次には中歌で、初めて高度処理された魚カスを埋めての実験が始まった。翌平成16年(2004年)には舎熊沿岸での実験が行われた。舎熊沿岸では沖き合い120m、幅500mに渡って(1)製鋼スラグ(2)腐植土を混合したものと(3)高度処理された魚カスをヤシの袋に詰めた鉄分補給ユニットを強固な鉄製ボックスに入れた人工的な腐食酸鉄を、海の波打ち際と沖合いとの両方から埋め立てた。これは海中工事の専門家である渋谷さんが、舎熊沿岸の特殊な海況を考慮しての提案によるものであった。

 半年後には埋設部から沖合い30mほどの海域にコンブが豊かに成育し、1年後には手入れをしない場所との比較で50cmから60cmくらいの大きさで、単位面積当たり約220倍もの細目昆布が生え始め、3年目には3m級の昆布を中心にしたみごとな海中林の再生に成功し、5年後にはスラグを埋めた場所だけではなく、1kmほど離れた場所まで広範囲にコンブが生えているのが目撃されている。
 鉄鋼スラグに含まれる鉄分(二価鉄イオン)が海草の生育に必要な養分となり、成長に大きな効果があることが確認された。そしてこの実験効果の継続期間の長さがこれからの問題となっている。

舎熊海岸にて
 16日午前9時、相馬さんに磯焼けからの藻場再生の実験場となっている舎熊海岸に案内される。海の中でコンブを持ち上げている記念写真を撮ろうと言うことで、爪先から胸まですっぽりと入る「つなぎのゴム合羽」を着用して、海の中に入っていった。
 こぶし大以上の大きさの石がごろごろと重なり、かなりヨロヨロとよろけながら入っていった。潮の関係でまだ波が荒らめで、瞬く間にシャツはびしょ濡れだ。転ぶとやばいなと注意しながらも、転倒寸前の状態が続く。細めコンブが見つかった。岸から10mも行かないところにびっしりと生えていた。すごい密生状態で、持ち上げると長いコンブがづるづると上がってくる。磯焼けからの藻場の再生は見事に成功したのだ。僕は今日、その名誉ある生き証人となったのだ。

「ウニ、アワビの身入りが良くなり、商品価値が高くなったが、舎熊海岸の磯焼けの修復・再生現場だけの漁獲量の変化に対するデーターは取られてはいない。増毛漁協の全体の漁獲量は横ばいを維持している。これは、他の漁場の磯焼けがどんどん拡張して漁獲量が減少する中で、漁協全体で現状維持しているというは、素晴らしいことだと思う。当然藻場の中では新たな生態系の発生が次から次へと発見されている。最近ではニシンが再来してきているのだが、毎年の再来場所は必ずしも特定できず、藻場の再生との関係はなんとも言えない。細め昆布は8月15日で禁漁になるのだが、10月までに胞子を付け、卵と精子を放出する。この時期の母コンブが最高に美味なのだが、禁漁期の真っ最中であり、禁断の美味となっている。磯焼けの無節サンゴモに生息するウニは、痩せていて商品価値が無く、食用には適さないのだが、無節サンゴモとは共生しているため、沢山生息している。漁協ではこの痩せたウニを安く買い入れ、豊かな海中林に移し変えて身を太らせて再生するという。このウニは力があり歩留まりが良いため入札の基準にされる」

他の新日鐵の磯焼け対策実験地域
 北海道増毛町。北海道寿都町。北海道函館市。東京都三宅島。千葉県館山市。三重県伊勢志摩。和歌山県田辺市。和歌山市串本町。福岡県北九州市。長崎県松浦市。長崎県西海市を含め、全国の20ヶ所で実験されている。
地域によって海中、海況条件が異なり、一律の成果が上がっているわけではないが、各漁協との連携の中で成果をあげてきていると言う。

◎藻場(海中林)による温暖化防止効果
藻場の形成が大気中の二酸化炭素の固定化につながるために、大量の海中林の再生は日本の温暖化対策にも莫大な貢献をすることになる。
◎世界各地での鉄散布による微小藻類の増加に関する実験、あるいは大型藻類に施肥剤として投与する実験は、いずれも効果があったとされる。藻類のみならず海底生物も増加傾向を示している。
◎スラグは粉となって海底に沈殿し、流れてゆかない。有害物質を出す可能性があるため有害なプランクトン発生の可能性もあるとされ、公海では散布が禁止されていると言う。

松永理論の否定から肯定へ
 磯焼けの研究学者達の長年にわたる北大松永教授の理論に対する反論と無視は、最近の増毛舎熊海岸での藻場再生実験の成功によって変化していった。再生現場の視察と再生成功の現実によって、栄養塩基の添加による海草の生育促進を積極的に認めるようになってきている。
 多様な磯焼けの原因と、多様な修復方法のなかで、少しでも有効で有りそうなものであるならば、単なる反論否定だけではなく、日本漁業の再生のために、最重要課題として積極的に試してみる必要があるのではないだろうか。

◎ 日本海側は太平洋側よりも磯焼けの海岸が多い。それは山が急激に海に迫っているために、砂防ダムが作りやすく、大量に作られたからで、このダムが海を徹底的に駄目にしていった。
(注)
栄養塩類…富栄養化の一つの指標物質で、藻類その他の水生植物が増殖するための必要な各種元素です。藻類その他水生植物が要求する物質としてチッソ、りん、硫黄、マグネシウム、鉄等の物質がありますが、藻類生産を制限しやすい物質、すなわちチッソ、リンが富栄養化の栄養塩とされています。(鉄鋼スラグ協会)
有機物…落ち葉、動物や昆虫の死骸、ワラやおが屑、生ゴミなど…微生物によって分解されるもの。主に土に使われる「有機質資材(堆肥)」、主に植物の栄養分として使われる「有機質肥料」これらも有機物と呼びます。(鉄鋼スラグ協会)

北海道のニシン 
突然のニシンの消滅
 昭和28年(1953年)、突如として発生したニシンの大不漁の原因はナンだったのか?
 ぜひ今回の訪問の中で、現地の漁師に聞いてみたい課題であったが、相馬さんの回答は明快なものであった。『乱獲さ!!』と言うことであった。当時は大変な漁獲量で、一度漁に出て、沖の網が満杯だと、家が1軒建てられると言われた。数の子は処理しきれないために、煮て、肥料に使用された。しかしその後の大不漁の発生の中で高度経済成長時代を迎え、数の子は暴騰し黄色いダイヤともてはやされていった。その頃、増毛には数の子の高度な加工技術があったために、世界中から数の子が集まり、処理して出荷されて行ったという。

増毛にニシンが再来した
 平成11年(1999年)3月18日早朝、増毛の前浜の幅1km、沖き合い80mにわたって海が真っ白になった。45年ぶりの増毛沿岸へのニシンの再来であった。この初再来の海岸は、北大の松永教授の指摘した通りの予想的中であったと言われる。しかしニシンは毎年同じ海岸に産卵に来る回帰性の魚ではなく、全く予想の出来ない気ままな習性を持ち、漁師にとっては予想の難しい危険な漁となっている。近年の再来でも、漁場も漁獲量も一定ではなく変動が激しい。それゆえに昔は投機の対象となり、多くの悲喜劇が生じたと言われているが、海中林再生との因果関係はまだ不明とされる。

石狩湾から稚内海域での刺し網、定置網漁でのニシンの漁獲量の変遷
 1880年代から1920年代頃までは年間50万t以上
 1985…14.7t 1986…86.2t 1987…371.1t 1988年…143.3t 1989年…10.4t 2003年…850t
 2000年以降は1000t未満で推移し、最盛期の100分の1以下の状態となっている。

◎数の子は7年生位まで産卵に来るのだが、3年から4年生くらいの中サイズの数の子が旨い。
◎干し数の子は、最高の卵を選別し、手間暇かけて作られるために、超高価なものとなり、浜値でキロ単価1,3000円くらいになる。
◎増毛の3月から4月のニシンは脂があり、活きているものを氷詰めにして出荷されるが、石狩、釧路のニシンは脂が少ない。冷凍輸入ニシンは脂があり、戻してから乾燥し、さらに戻して漬け込むと旨い。     
◎増毛の地場の数の子は血が回っているために掃除が必要となるが、最高の旨さを持つ。
◎ 生鮮ニシンの数の子…2月後半の活きているニシンの腹子を出し、塩で固めるとエグミは全く出ない。エグミは塩蔵すると発生する。その後冷蔵、-15℃までは、プチプチ感は失われない。今年の初漁は1月15日だった。
◎ 普通のニシンは魚を丸ごと塩蔵し、その後数の子を出し、過酸化水素で漂白し、水で洗い流す。
◎ 小さいニシンは鱒用の刺し網で獲るが。不思議なもので、網目を小さくすると大きいものが入らず。大きくすると小さいものは全く入らない。
◎ ニシン不漁の原因は、鯨が食べているからだとも言う。

世界一の増毛、留萌漁協のナマコ、産地価格キロ単価70,000円
 6月15日解禁、9月15日終漁。ケタ網漁。毎年漁獲量が決められノルマが終わると終漁となる。海草が腐って砂と混じるところに生息し、水温が5度から3℃くらいに下がると石の下に隠れてしまう。獲れたナマコは沖で海老篭に入れられ泥吐きをされてから市場にでる。
 今期の浜値はキロ単価5,400円。これは驚異的な値段だ。能登のナマコは築地での市場価格で1600円前後。東京湾のナマコは中国バブルの影響で、今年最高値を付けたと言って喜んでいたが、浜値で800円だ。青森県の陸奥湾のナマコは最高品とされていたが浜値は不明。増毛産はそれ以上なのだと言う。増毛と陸奥湾のナマコは色が黒く、棘が高く多い。
 キロ単価5,000円とすると、100gのナマコは1個500円で、これを中国向けに加工(ボイル、乾燥、熟成)してから干すと、元の重量からの歩留まりは約3.5%で、3g強となり、100gのナマコが約3gになる。加工費+諸経費を加算すると1個2,100円とすると、乾燥ナマコは1gで700円となる。これは産地価格がキロ単価70,000円という膨大な価格となるが、最終的にはどのような値で取引されるのだろうか? 干しナマコに加工されたものは、神戸経由で台湾に輸出され、アメリカのチャイナタウンに出荷される。この高価なナマコは特別な記念日に食されるという。

◎増毛、「すが宗さん」のナマコ料理。
10分塩もみしてヌルを取り除き、1時間ザルに入れ水の中で振りさらす。
甘露煮…乾燥ナマコを戻しての甘露煮で、小指ほどのサイズだが、棘が長く、揃って飛び出している。食感はまさにコラーゲンの塊のようで、ぷりぷりとし食感が旨かった。

ミズダコ
1)タル流し漁…熊手のような針に疑似餌のエビ・カニをつけて流すのだが、タコは針にチョッとでもかかるとすぐに観念して大人しくなり、逃げたりしなくなる。
2)延縄量…1週間から10日くらい流しておいてから回収する。北海道だけの漁法。
3)いさり漁…いさりで引っ掛ける。
寿命は3年で、若いものはマダコ、3年生になるとシオダコとよばれ、身が柔らかくなる。

留萌地方卸売市場にて
甘エビ
 エビ漁船100トン級二隻。本日の甘エビの漁獲量は3kg×200ケース。漁獲漁の制限は無く、TAE(漁獲努力可能量)により、漁船数、操業日数、漁法等で制限される。
 船の中で7時間くらい水槽の中で活かし、泥を吐かせる。空輸便にて追っかけの出荷。
留萌漁協ではエビ漁の船は6隻あるのだが、値崩れしないように本日の操業は3隻だけ。1船で5本の延縄を引き、それぞれの幹縄には20篭のエビ網で、合計100本の篭が付けられている。

ボタンエビ
 1kgで12から13尾のものは浜値で7,000円から8,000円するのだが、漁獲量が少なく、甘エビとは漁場が異なるため、専門に獲ると採算が合わないために特注でもない限り、あえて漁はしなくなった。

スルメイカ…イカ漁船19トン1隻 
 25尾入り、1箱2,000円。空輸便追っかけ出荷。本日の入札は半値の安値。セリ人が焦れていた。
◎オホーツク海枝幸の5月~6月にかけての毛ガニは、身肉にミソが入ってきて最高に美味。
◎ズワイガニの卵は真っ赤で、塩辛が旨いのだが、北海道ではメスのコウバコカニは禁漁のため手に入らない。オスとメスは別々に生息しているため、混獲はない。

サケの定置網によるブリの漁の発生
◎定置網…50m×300m
 サケは9月10日に解禁になるが、この網に10kgから20kg級のブリが入る。この頃の水温は12月に氷見で獲れる頃と同じ17℃くらいで、10月20日頃まで続く。近年築地には、余市あたりのブリが「天上ブリ」のブランドで入荷してくるが、佐渡・氷見のブリの香りと旨みが欠ける。
 しかし、今期は、相馬龍平さんが、最高のブリが獲れたときに連絡するとのこと、再度試食してみることにする。
5,6年前頃より佐渡、氷見でのブリの漁獲が激減している。秋になっても北海道の水温が下がらず、17℃くらいに高止まりし、ブリにとっての適温であるために、北海道に定着してしまい南下してこないのだという。しかし、10月10日には禁漁期に入る。12月上旬から1月上旬までの佐渡・氷見のブリの旬の時期の水温が高すぎるのだろうか? 

◎境港でのマグロの巻き網漁は、効率が良いために禁じられている「夜巻き漁」をしているとも言われる。これはイカ漁船と提携し、イカ漁の明るい灯りを利用して魚を集め、一挙に巻き獲るのだと言う。これは大変な禁じ手で、密漁と同じことになるらしい。

平成22年9月8日

↑『増補』のその後の目次へ